2026年の始めに、最近よく見に行っている都鳥鹿踊さんが「前幕を新調するよ!」ということで、染め上がった生地を縫い始めるところを見せていただいた。
完成まで見られたわけではないが、普段は装束が分解された状態を見ることはないので、縫い始めの日に見たこと・考えたことを書いておこうと思う。
装束を縫いに
藤原まつりから1か月半ほど経った12月下旬に、都鳥鹿踊さんの公式X(旧Twitter)で「幕が染め上がった」という投稿が!
伊藤染工場さんに依頼していた鹿頭幕の染めが仕上がりました、ありがとうございました。仕立て、頑張らねば!#鹿踊 pic.twitter.com/gZ40OXahXM
— 行山流都鳥鹿踊 -ぎょうざんりゅう とどり ししおどり (@todorishishi) 2025年12月21日
えっ!装束を新調するの?見たいぞ…とは思いつつも、忙しさに押し流されて何のアクションも起こさないまま年を越した。
そして、正月にメンバーの方から「あけましておめでとうございます」LINEをいただいたので「そういえば幕を新調するんですか?」と返信したところ「今週末から始めるよ」との情報が。
「やっぱり見る!」ということで、2月の予算(えんぶり枠)を切り崩して岩手へ向かう管理人だった。
余談だが、管理人は以前、前幕を染めた「伊藤染工場」さんにプレゼント用の前掛けを発注したことがある。
鹿踊りや神楽の装束などを手掛けていることは知っていたので緊張していたが、個人で1枚だけ発注した品物でも細かい要望まで丁寧にやり取りしてくださったのをよく覚えている。
「実績」としていろんなデザインが載っていて、見ているだけでも楽しいので公式サイト貼っておきます。
前幕の生地は巻物状
到着してみると、染め上がった布が!都鳥鹿踊さんのXで見たとおり、巻物みたいな感じ!(ちなみに、今回は管理人が作業に夢中すぎて写真を撮り忘れたので全然写真がありません…)
写真が無くて本当に申し訳ない。ということでイラストで描いてみた。染め上がってきた布は広げるとこんな感じの模様の配置。この長い布が、芯にクルクル巻かれていた。
(見た目のイメージなので、ウサギの首の向きとか違ったらごめんなさい)

紋の意味を探る
いやー、この色合い、やっぱりいいなぁ。と思いつつ、紋様のほうはどんな意味が?と気にはなる。けれど、詳しい意味合いなどはあまり伝わっていない様子。
なので、「都鳥さんでの意味が云々」ということでなく、各模様そのものについて少し調べてみた。
【九曜紋(くようもん)】
太鼓系鹿踊では特によく見られる紋で、伊達家から使用を許されたとされる。都鳥鹿踊でも中央には九曜紋が配されており、仲立・女鹿のみ赤、それ以外の鹿は白い九曜紋になっている。
【梅鉢紋】
菅原道真(天満宮)の紋として有名だが、梅が寒さの中で花を咲かせることから吉祥文様としても用いられる。
【三つ巴】
神社の神紋としてもよく見られるが、鹿踊では仏法僧や神儒仏の教えを表すとする伝承もあるという。
【立波・扇】
立ち上がる波を表した「立波」は勢いの良さから武家にも好まれた紋様とされる。その上にある「日の丸扇」は末広がりを表す縁起の良い紋。
『行山流鹿踊―宮城県北・岩手県南に分布する鹿踊群の系譜―』では、波が「洗い清める」、扇が「あおぎ祓う」意味を持つと説明されていた。
同じく行山流の舞川鹿子躍でも幕に扇・三つ巴・波浪の紋を用いている。
【波に兎】
兎は飛躍や多産、豊穣を象徴する縁起物として知られている。その兎が波の上を駆ける意匠は謡曲「竹生島」に着想を得たものという説もある。
波と兎の組み合わせは「波を飛び越える=困難を乗り越える」ことも連想させるため、成長を願い新たな門出を祝う場面などでも好まれるという。
江刺の久田鹿踊や、その流れを汲む行山流湧水鹿踊にも見られた気がする。
【鶴丸】
岩手でよく見る二羽の「南部鶴」とは異なり、一羽の鶴を円形に表した紋。鶴は長寿や吉祥の象徴として知られるが、鶴丸については誰かの家紋との関係なども含めて、今回は分からなかった。
坂本沢や地ノ神の鹿踊でも見た記憶があるので、こちらも機会を見つけて調べてみたい。
縫うこと、かがること
踊ってるときの前幕って「着物」とまでいかないけど「いろいろ縫製してあるのかな」という感じにも見える。腕にかかった前幕が、ちょっと袖っぽくも見えるし。
だから、この長くて細い布からどうやってできあがるの?と一瞬パズルみたいな感覚だったが、造りとしては上の図のような感じで思った以上にシンプルだった。
一枚の布を一か所裁断したら、あとはその2つを大きな赤い九曜紋が上下つながる向きに縫う。上の図では九曜紋がいびつになっているが、ここは縫いしろor端処理で端が少し見えなくなるので実際はきれいな九曜紋になる。
で、2つの布を継ぐ縫い目は都鳥鹿踊の場合は赤い糸で縫い合わせる。着てる状態だと、この部分↓。

この部分は、はあえて目立つ色の糸でかがり縫いしている団体が多い。
以前の記事でも触れたが、これについて金津流石関獅子躍の方に「幕は必ず2枚(上下に分かれた造り)でなければダメ、とあります」と教えていただいたことがある。ので、かがり縫いには分かれ目を強調する意味があるのだろうと思っている。
当時は、「そのように決まっているから、敢えて大きな布を一度裁断して縫い合わせているのか?」と思っていたが…二枚の幕が、元は完成形と違う向きにつながった一枚の細長い布だったとは驚いた。
今回は実際に、かがりの縫い目を間近で見てなんとなく運針がどんな順なのかので自宅に帰ってから「忘れないうちに…」と手ぬぐいの端切れを縫ってみた。↓こんな感じ。
実物は、もっときれいにやってあるよ…でも、最初に見たとき「天地の布に別々に糸がかかってるように見えるけど、どうしてちゃんとくっついてるの」と感じた疑問は解消された)

ちなみに、今回の幕の新調を指南してくださったのも、「幕は2枚の布でなければならない」と以前に教えてくれた石関の方!
石関のかがり縫いは、複数の色の糸を撚って縫われているので、近くで見てみるのおすすめです。今回の写真ではないが、こんな感じ。かわいいよね、この色。
使われている糸の色には、なにか決まりがあるのだろうか。

それにしても、「カシラに幕を装着するときはどうしたら付けやすいのか」「幕の端はどう処理しているのか」みなさんが以前にやりにくかった作業をもとに先輩にいろいろ質問してるのを聞くの楽しすぎる…。
しかも、そういった話を聞きつつ、端っこの目立たないところではあるが縫う作業も手伝うことができた!来てよかった…。
今年1月の時点では「今年は、まだ奉納や出演の予定がない」とのことだったけれど、これまで平泉で踊っているのをたくさん見学させてもらったので地元で奉納したりしているのも見てみたいところ。
今後の出演に関する最新情報や今回の修繕の様子はSNSでチェックできるので…前回も貼ったけれど、もう一回貼っときますね。